日本語文法の体系的知識(その3)
「活用」について
国語の授業で学校文法を扱う場合に、必ず触れることになるのが活用である。しかし、現在の活用形は問題点が多い。この問題点について、奥津(1981)は3点指摘している。1つは、活用形の名称の問題である。例えば、「未然形」が表しているのが必ずしも「未然」ではない場合がある*1。2つめは、活用形の立て方が、形式を規準としているのか、意味や機能を規準としているのかが曖昧で一貫性がないことである。例えば、「書け」は仮定形と命令形の両方で使われ、「書き」と「書い」はともに連用形であるとされている。3つめは、語幹と活用語尾の捉え方が間違っていることである。「書く」も「噛む」も同じ「か」が語幹となり、本来は文法機能のみを担うはずの活用語尾の方に語彙的意味が入り込んでしまっている。
このように多くの問題を抱える活用が、学校文法の中心的な地位を占めているのは、学校文法が和洋折衷的な枠組みから出発したためではないかと考えられる。北原(1985)が指摘するように、日本語の文法研究は、形態論や品詞論に属すものが古くから行われていたのに対し、統語論や構文論と呼ばれる分野は比較的最近になってから研究されたものである。文全体を俯瞰する枠組みが西洋語文法からの借り物であったために、活用論に問題があるにもかかわらず、再構築されることなく放置されてしまったのではないだろうか。
*1:「書かせる」の「書か」など。