持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

和文英訳再考(その3)

生徒の感じる「もどかしさ」

吉田・柳瀬(2003)はコミュニカティブ・アプローチにおける効果的な日本語の活用について述べている。このなかで、スピーキングやライティングで生徒がどのようなもどかしさを感じるかについての研究に触れられている。これは高校2年生に日本語で作文を書かせ、その後辞書も引かせず、質問も受け付けずに作文を英訳させ、そのときの「もどかしさ」を調査したものである。その結果、生徒は英語の語順で文を組み立てることに困難を覚えた、日常的な日本語をうまく英語で表現できなかった、単語の綴りが分からなかった、前置詞の使い分けに自信が持てなかったりと、さまざまな「もどかしさ」を生徒が感じていることが明らかになった。吉田らはこうした「もどかしさ」を「辞書の使用などで少し準備期間を設ければ解決できるもの」と「ただ時間をかけるだけでは必ずしもできないもの」の2つに分けている。

「もどかしさ」の解消に向けて

吉田らは生徒が「もどかしさ」を解消するために意識すべき視点として、英語が日本語と比べて語順に厳格な言語であることと、言いたいことすべてを一気に言おうとしないことの2点を挙げている。前者は寺島(1986)も指摘していることで、日本語が情報の新旧から語順をある程度自由に操作できるのに対して英語が語順に非常に厳密である。日本語と英語で語順が違うということに加えて語順の柔軟性に違いがあることも生徒に意識させておかなければ、生徒は自信を持って英文を組み立てられるようにはならない。後者はについては少し慎重に考えたい。コミュニカティブ・アプローチにおいては当たらずとも遠からずといった立場で生徒に自信を持たせることは必要である。だが、ここに和文英訳を活用することで日本語で表されることと英語で表されることの差を詰めていくことができる。これは日英語の語順の違いを一対一で対応させれば英語として成立する場合と、成立しない場合、そしてその中間の不自然な場合とに分けて考えていけばよいのだ。

日本語との対比から学ぶ英語の語順

英語の語順への習熟というと、思い起こされるのが5文型である。文型をめぐっては一通り議論しているのでここでは触れない*1。ここで重要なのは、文型が実は動詞型であること、そして一部の基本動詞を除いて動詞の意味で文型が決まるということである。日本語と英語で対応すると思われる動詞を取り上げ、項の取り方を示し、日英語できれいに対応するところとそうでないところを明らかにし、後者に意識を向けさせればよい。もちろん日英語で同じ品詞で対応するものばかりではない。日本語では助動詞を用いて表す「使役」は、英語では動詞を用いることで実現される。このときに用いられる動詞の中には意味が弱く漠然とした基本動詞が含まれている。こうした点についても順を追って明示していくことが必要であろう。

参考文献

  • 寺島隆吉(1986)『英語にとって学力とは何か』三友社出版.
  • 吉田研作・柳瀬和明(2003)『日本語を生かした英語授業のすすめ』大修館書店.

日本語を活かした英語授業のすすめ (英語教育21世紀叢書)

日本語を活かした英語授業のすすめ (英語教育21世紀叢書)

*1:このブログ内を「文型」で検索していただければ、過去に書いたものが出てきます。数が多いのでここにリンクを張ることは控えさせていただきます。