持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

和文英訳再考(その2)

和文英訳の利点

和文英訳にも利点がある。まずは消極的な利点から挙げていく。中尾(1991)はクラスの生徒数が10〜15人程度までであれば自由英作文の授業が可能であり、それを超えるクラスサイズでは教師の添削の負担が大きく現実的でないことを指摘している。このため日本語によって内容が絞られている和文英訳のほうが効果的であるとしている。
積極的な利点もある。これも中尾が指摘するところであるが、母語である日本語の干渉による誤りは日本語と英語の違いに触れる絶好の機会と捉えるべきである。中尾はまた、日本人が日本語で考えるのは当然であるから日本語で考えることから英語を書く学習を始めるのも一理あるのではないかと説く。

ライティング指導における和文英訳以外の日本語の活用

英語が書けるようになるために日本語を活用する方法は、和文英訳だけではない。三森(2009)は、英語のパラグラフライティングの学習に先だって日本語でそうした言語技術を身につけることが有効であると主張している。ただし、大井(2008)が提案するように、思考力や論述力は英文ライティングを学ぶことで日本語の文章表現に転移させていくことも可能である。しかし日本語の言語技術から入っていくことの最大のメリットは母語である日本語を、学習者にとって必ずしも日常的とは言えない「書く」という行為を通じて意識させることにある。このときの意識化がメタ言語能力を高める引き金となる。

和文英訳とメタ言語能力

日本語の文章表現の際に日本語の意識が高まると、和文英訳でよく「和文和訳」と言われる言い換えも容易にできるようになってくる。日本語の文の仕組みが客観的に捉えられる状況であれば、それを英語にできるかどうか、英語で表現できるとしたらどのように表現したらよいのかを考えていくことをより効果的に行うことができる。そして、日英語の違いや言い換え可能性などを考えながら英語の文の仕組みに習熟していくことができるのが、和文英訳の最大の利点なのである。国語の学習と英語の学習のインターフェイスとしての役割を、和文英訳が果たすのである。

参考文献

  • 中尾清秋(1991)『英文表現の基本と実際』研究社.
  • 大井恭子(2008)「英語ライティングを通じて思考力、論述力を身に付けよう」『英語教育』57(1) pp.21-23.
  • 森ゆりか(2009)「英語力の根底にあるべき母語力」『英語教育』58(5) pp.28-30.