持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

英語基礎:Sアカデミー「英語S」の背景(その8)

S+Vの導入

S+V+OおよびS+V+O+Aの後に導入する文型は、S+Vである。名詞(句)+動詞+名詞(句)すなわちS+V+Oが英語で最も基本的で一般的な文型であることをまず伝え、S+V+O+AではS+V+Oでは言い足りなさが残り、副詞句(主に「前置詞+名詞」)がどうしても必要となる動詞が存在することを示した。これに次いでS+Vを導入するわけだから、今度は目的語がなくても完結する動詞が存在することを学習者に理解してもらわなければならない。そこで、S+Vをとる動詞を、「単純動作・自然現象・生理現象・変化を表す動詞」と規定した。こうした扱い方は古くからあるものであり*1、近年においては認知言語学の立場から再検討が試みられている*2。この文型は目的語をとらない分だけ文構造が単純になるように思われがちだが、実際には何らかの副詞的な修飾語なしで用いられることは少ない。このことが入門期に最初に導入する文型としてS+Vが用いられない理由となっている*3。翻って「英語S」の授業でこの文型を導入するにあたっては、S+V+Oを導入したときに一通りの動詞修飾の副詞句を扱っているため、S+Vを扱う段階ではそうした副詞句の復習の機会となる。なお、教材には、これらのカテゴリーに該当する動詞を含む文を『短文で覚える英単語1900』から抜き出し、配列している。これらを文構造分析と整序問題を中心とした練習問題にして生徒に課している。

S+V+Aの導入

S+Vの次はS+V+Aを導入する。〈存在〉や〈移動〉は基本命題形*4に典型的に当てはまるものであり、これらの命題において伝達される情報は〈位置〉や〈方向〉であり、このためこれらの概念を表す副詞句を省略することはできない。こちらも教材制作にあたっては、これらのカテゴリーに該当する動詞を含む文を『短文で覚える英単語1900』から抜き出し、配列している。また、S+V+Aには、speakやtalkなどの「話す」という意味の動詞も含めている*5。『短文1900』を見ていくと、この3つのカテゴリーに収まらない「自動詞+前置詞句」もかなり見られる。これらの動詞句はイディオムとして覚えてもらうことになるのであろうが、構造上の類似性からここで「『前置詞+名詞』が必要なその他の動詞」として例文を配置した。

英語指導と文法研究

英語指導と文法研究

高校入試 短文で覚える英単語1900 (シグマベスト)

高校入試 短文で覚える英単語1900 (シグマベスト)

認知意味論の原理

認知意味論の原理

英語教師の文法研究 (英語教師叢書)

英語教師の文法研究 (英語教師叢書)

*1:黒川泰男(1986)『英文法再発見・上』三友社出版

*2:宗宮喜代子(2009)「2種類のSV構文から見えてくるもの」『英語教育』58(2) pp.50-52

*3:小寺茂明(1990)『英語指導と文法研究』大修館書店

*4:中右実(1994)『認知意味論の原理』大修館書店 ただし、中右は〈移動〉ではなく〈過程〉を命題形の名称としている。

*5:安藤貞雄(1983)『英語教師の文法研究』大修館書店, p. 7-8

2019年センター試験・第3問Aを読む(問1を例に)

問1

When flying across the United States, you may see giant arrows made of concrete on the ground.

文章の冒頭が疑問文になっていて、書き手が読み手に対して問題提起を行うことがある。Whenで始まる文では、Whenの直後が倒置になっていないかを確認し、倒置になっていれば疑問文と判断し、倒置になっていなければWhenが従属節を導き、副詞節になっていて後に主節が続くか、名詞節になっていてこの節自体が主語になっているかのいずれかを予測する。ここではWhen flying across the United Statesと、分詞構文が後続しているため、副詞節相当と判断する。

カンマの後にyou may seeが見えて、これが主節の主語と述語動詞であることがわかる。その目的語がarrowsである。無冠詞の複数形であるから、このarrowsについての一般的な説明を述べようとしているのではないかと考える。次のmade of concrete on the groundであるが、これを補語として主節全体をS+V+O+Cと読むのは適切とは言えない。もしこれがS+V+O+Cであれば、矢印がコンクリートで作られて設置されるまでを見届けるという意味になる。作業は長時間に亘ることが考えられ、その一部始終を空中から見るというのは考えにくい。それよりもmadeを、arrowsを修飾する形容詞用法の過去分詞と考えるべきである。こう考えると、空中から矢印を目撃する時点ですでに矢印の製造と設置が完了していることになり、より妥当な理解が可能になる。on the groundは、see(V) arrows(O) . . . on the ground(C)という形で補語になる。「矢印が地面にあるのを目にする」となる。

Although nowadays these arrows are basically places of curiosity, in the past, pilots absolutely needed them when flying from one side of the country to the other.

Although節はcuriosityまでである。in the pastの前後にカンマがあってわかりづらいが、Although節にnowadaysがあることに着目しなければならない。このnowadaysとin the pastは対比をなし、in the pastが主節全体を修飾していると考える手がかりとなる。つまり、この文ではAlthough節と主節で対比の関係になっているのである。these arrowsは前文のarrowsを指し、それが現在では基本的に興味本位で眺める場所であると述べられている。これに対して主節のin the past以降では、無冠詞複数形のpilotsが主語、「絶対的に」という意味の副詞absolutelyが述語動詞neededを修飾し、目的語であるthemすなわちthese arrowsがその後に続く。主節では矢印が興味本位で置かれているものではなく、かつては飛行機を操縦して西海岸から東海岸(あるいはその逆方向)へ移動する際に必ず参照しなければならないものであることが述べられているのである。

The arrows were seen as being so successful that some people suggested floating arrows on the Atlantic Ocean.

The arrows were seen as . . .で「その矢印は…と見なされていた」という意味になる。何と見なされていたのかというと、being so successful、つまり「それほど成功していた」と見なされていたのだという。では「それほど」とは「どれほど」だろうか。この〈程度〉を具体的に述べているのがthat節である。that節の中では、大西洋に矢印を浮かべようと提案している人がいると述べられている。some peopleは所詮少数派である。この少数意見を他の人々がどのように受け止めるかが、提案の実現に向けては重要になる。大西洋上に矢印を浮かべるということはヨーロッパとアメリカを飛行機で行き来する需要が高まっていることが考えられる。こうしたことがこの文の後でどう展開していくのかを追っていくことになる。

② Pilots used the arrows as guides on the flights between New York and San Francisco.

この文もpilotsが無冠詞複数形であり、一般的事実として述べられているものであることがわかる。このpilotsが主語でusedが述語動詞、そしてthe arrowsが目的語である。このthe arrowsは①の文のarrowsではない。①の文のarrowsは提案の域を出ておらず、実在するものではない。また、①の文のarrowsは大西洋上に存在する(はずの)ものであるが、②の文はon the flights between New York and San Franciscoが後続している。New Yorkはアメリ東海岸のとして、San Franciscoは西海岸の都市である。すなわち、between New York and San Franciscoはfrom one side of the country to the otherの言い換えである。②の文は冒頭2文と意味的に密接な関係があるが、その間で①の文が邪魔をしている。ここで本問の解答は①ではないかという考えに至る。

③ Every 16 kilometers, pilots would pass a 21-meter-long arrow that was painted bright yellow.

冒頭のEvery 16 kilometers,は副詞的な働きをする名詞で「16キロごとに」という〈位置〉を表している。主語はpilotsでやはり無冠詞複数形である。would passは述語動詞で、過去の習慣(ここでは慣習)をwouldで表している。a 21-meter-long arrow that was painted bright yellowは矢印の形状を表している。thatは関係代名詞である。この文は、②のused the arrows as guides on the flights between New York and San Franciscoを具体的に展開したものと考えられる。つまり、東海岸から西海岸へという大きな説明から、16キロごとに21メートルの黄色い矢印を見て進んでいくというやや細かな説明に展開している、と考えるわけである。こう考えると、冒頭2文と②→③という流れは明確である。

④ A rotating light in the middle and one light at each end made the arrow visible at night.

この文は、A rotating light in the middleとone light at each endという2つの主語がandで繋がっている。述語動詞はmadeで、the arrowが目的語visibleが補語になっている。at nightはvisibleを修飾している。これは③で16キロごとに設置されているという21メートルの黄色い矢印ひとつひとつの詳細な説明と位置づけることができる。こう考えると、冒頭2文と②→③→④という流れは明確になってくる。

Since 1940s, other navigation methods have been introduced and the arrows are not generally used today.

この文は、in the pastでいったん過去に遡った説明をしていたところをSince 1940という句を文頭において、現在に引き戻そうとする流れを作っている。この文の主語のother navigation methodsは、「矢印以外の誘導システム」という意味である。これが導入されてきたことが述語動詞have been introducedで示されている。andの後の後半の文は矢印が一般には使われなくなったことを述べている。

Pilots flying through mountainous areas in Montana, however, do still rely on some of them.

この文のhoweverは直前の文との逆接の関係を示している。Pilotsが主語で、do . . . relyが述語動詞である。Pilotsを修飾する現在分詞の句、flying through mountainous areas in Montanaというように、Montanaという地名がある。これはアメリカ北西部の州の名前である。これでこの文章の説明がアメリカ国内のことに終始していることがわかる。また、大西洋上に矢印を浮かべる提案について賛否が述べられている箇所もない。こうして取り除くべき文は①であると判断することができる。

英語基礎:Sアカデミー「英語S」の背景(その7)

語順と語形(続き)

前回までは動詞を修飾する語句について述べていた。「前置詞+名詞」が動詞を修飾する場合を分類すると、様態、場所、時、頻度以外のものも当然存在する。これらの語句も分類が可能であるが、『短文で覚える英単語1900』に収録されている例文では分類するほどの数の事例があるわけでもない。そこで「その他の意味の修飾語」と称して例文を示した。これとは別に「前置詞+名詞」が名詞を修飾する場合については項目を改めて扱っている。ここでは「前置詞+名詞」が後ろから名詞を修飾し、日本語とは逆向きになることを確認しておかなければならない。

S+V+Oの次に扱う文型

S+V+Oの次に扱う文型をめぐっては、S+VかS+V+Cかということになるが、今回はS+V+O+Aを扱っている。依然として「7文型」の導入に消極的な教師は多い。「7文型」を導入する場合に生じうる混乱の一つに文型番号の問題がある。これに対する私の解決策は、文型番号を生徒に提示しないことである。仮に文型番号を提示しても、従来の1~5の番号を廃して1~7に振り直さなければならないというわけでもない。例えば、『ジーニアス英和辞典第5版』では、次のように提示している。

  • SV 主語+動詞 第Ⅰ文型
  • SV副詞(句) 主語+動詞+副詞的修飾語(句) 第Ⅰ文型
  • SVC 主語+動詞+補語 第Ⅱ文型
  • SVO 主語+動詞+目的語 第Ⅲ文型
  • SVO副詞(句) 主語+動詞+目的語+副詞的修飾語(句) 第Ⅲ文型
  • SVO1O2 主語+動詞+間接目的語+直接目的語 第Ⅳ文型
  • SVOC 主語+動詞+目的語+補語 第Ⅴ文型*1

この文型を提示する理由としては、義務的副詞句をとる動詞に習熟させたいという意図がある。中学校の教科書などであれば「熟語」として片付けてしまうのもよいかもしれない。しかし高校生を対象とする授業においては、その「熟語」を整理する枠組みを提示しておくほうが記憶が容易になるのではないかと考えている。またベーシック・イングリッシュでこの文型を基本文型としている*2ことも踏まえて判断した。実際の導入の仕方としては動詞の意味による分類を行い、「置く」という意味の動詞、「運ぶ」という意味の動詞、「知らせる」という意味の動詞という3つの動詞群を設定した。これ以外の動詞については例文をまとめて提示し、分類を先送りにした。この辺りの判断は、中学英語の復習の後で扱う予定の『英文法基礎10題ドリル』における「文型」の扱いも参考にした。何でもいきなり精緻に分類すればよいというものでもないところが、教材制作上の悩みどころである。

高校入試 短文で覚える英単語1900 (シグマベスト)

高校入試 短文で覚える英単語1900 (シグマベスト)

ジーニアス英和辞典 第5版

ジーニアス英和辞典 第5版

ベーシック・イングリッシュ再考

ベーシック・イングリッシュ再考

英文法基礎10題ドリル (駿台受験シリーズ)

英文法基礎10題ドリル (駿台受験シリーズ)

*1:物書堂版アプリより引用。

*2:相沢佳子(1995)『ベーシック・イングリッシュ再考』リーベル出版, pp.131-124.

英語基礎:Sアカデミー「英語S」の背景(その6)

語順と語形(続き)

英語の副詞、とりわけ様態を表す副詞の扱いには、注意が必要である。ここには英語と日本語で品詞のズレが存在する。

日本語の場合、形容詞または形容動詞の連用形というものがあって、それが英語の副詞と同じ働きをしているので、なおさら、副詞という概念が生徒の頭の中にきちんと成立しにくくなっているなっているのではないだろうか。*1

英語のhappilyは副詞ですが、日本語の「幸せに」という語は、副詞でなく形容動詞ですし、英語のhighlyは副詞ですが、日本語の「高く」という語は形容詞です。日本語の「幸せに」と「高く」は、それぞれ「幸せな」や「高い」の連用形という形であって、活用形が変わっても品詞が変わることはありません。言い換えると、英語ではhappyとhappilyでは別の語なのに、日本語の「幸せな」と「幸せに」は同じ語が活用変化しただけで、形容動詞であることに変わりはなく、同様に、「高い」と「高く」も形容詞であることに変わりはありません。*2

「『美しく』だから副詞だよね?」という説明は意味をなさない。「美しく」は形容詞の連用形であると国語の授業で学んでいるのだから、日本語の品詞の枠組みでは英語の品詞の枠組みは理解できない。程度の副詞にも同様の問題がある。

形容詞を修飾するのは、英語では副詞だけで、very good(とても良い)やextremely difficult(きわめて難しい)のように副詞が形容詞を修飾します。日本語では、「とても大きい」のように副詞が形容詞を修飾するほか、「すごく嬉しい」のように「すごい」という形容詞の連用形「すごく」が形容詞を修飾することもできます。*3

こうしたところからも、英語の仕組みの中で英語の品詞を捉えていく練習が求められる。

実際の教材の副詞的修飾語は次のように項目立てを行っている。

  • 〈様態〉を表す語句:(主語+)動詞+(目的語+)〈様態〉の語句
  • 〈場所〉を表す語句(位置・方向):(主語+)動詞+(目的語+)〈場所〉の語句
  • 〈時〉を表す語句:(主語+)動詞+(目的語+)〈時〉の語句
  • 〈頻度〉を表す語句:主語+〈頻度〉の語句+述語動詞+目的語
  • 〈話し手(書き手)の気持ち・判断〉を表す語句:〈気持ち・判断〉の語句+主語+述語動詞(+…)

このうち、上の4つの語句については文頭に生じる場合も別に扱っている。また程度の表現については『短文で覚える英単語1900』の例文には皆無であったため、今回は取り立てて扱わないこととした。なお、〈時〉に関しては、「絶対時間」と「相対時間」による前置詞の有無の判断を導入している*4。またこれらの副詞的修飾語とは別に、onlyやevenを扱う必要があるが、ここではこれらの語が名詞を修飾することもあることをしっかりと伝えておく必要がある。これについては、tall John「のっぽのジョン」のtallがジョンの性質を表しているのに対して、only John「ジョンだけ」のonlyはジョンの性質には関わっていないことを理解してもらうようにした。ここで品詞を意味で定義しておくことの意義が出てくるのである*5

英語を通して学ぶ日本語のツボ (開拓社言語・文化選書)

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高校入試 短文で覚える英単語1900 (シグマベスト)

高校入試 短文で覚える英単語1900 (シグマベスト)

学習英文法を見直したい

学習英文法を見直したい

*1:寺島隆吉(1986)『英語にとって学力とは何か』三友社出版, p. 18.

*2:菅井三実(2012)『英語を通して学ぶ日本語のツボ』開拓社, p. 18.

*3:菅井三実、前掲書, p. 22.

*4:末岡敏明(2012)「より良い学習英文法を探るための視点」大津由紀雄(編著)『学習英文法を見直したい』研究社

*5:実際の授業では、これらの副詞が日本語では「さえ」「も」「だけ」のような副助詞に対応し、連体修飾語にならないことにも気づかせている。

英語基礎:Sアカデミー「英語S」の背景(その5)

語順と語形(続き)

副詞の扱いを巡る議論については前回触れた。今回は基本文構造を導入する段階では副詞の機能を定義することを避けた。品詞は8品詞のうち、動詞、名詞、形容詞、副詞を「基本4品詞」とし、これら4品詞の導入にあたっては意味による定義を行い、文中での機能による定義はいずれもこの段階では回避している。

動詞→状態・変化・行為を表す。
名詞→モノ・コトの名前を表す。
形容詞→人・物・出来事の性質、状態を表す。
副詞→行為などの仕方、時、場所、程度などを表す。

他の品詞はともかく、副詞のこのような意味からの定義も暫定的なものである。それでもとりあえずの定義から、どのような語がそれにあたるかを確認し、そして実例に触れていくことで、副詞の感覚を養ってもらうことを目指した。そして、前置詞の導入を済ませたうえで、副詞句の意味と文中での基本的な位置を例文で確認していくという方針をとることにした。

前置詞については、英語の前置詞と日本語の助詞との対応関係が取り上げられることが多い。英語の「前置詞+名詞」が日本語の「名詞+助詞」が鏡像関係(mirror-image relation)にあるというものである。

  1. live in London=ロンドン ニ 住ム
  2. sit on the sofa=ソファー ニ スワル*1

こうした考え方は、英語の前置詞も日本語の(格)助詞も、名詞句と動詞句の関係を示すという共通性に着目することに根ざしたものである。両者の違いは語順にあるというのがこの分析が重視するところである。日本語母語話者に英語を教える際に用いる教育文法において日英語の語順の違いを取り上げることは極めて重要である。しかしまた同時に、ここでの日英語の違いは語順だけなのかという疑問が残る*2

英語では、物事の空間関係を表す際には前置詞を用いる。しかし、日本人にとって英語の前置詞の習得はむずかしい。それは、日本語に英語の前置詞に対応する語がないだけでなく、空間関係を捉える際に日英語では表現の仕方に違いがあることにも起因するからである。*3

英語は前置詞1語で多様な空間関係を表すことができるが、日本語の助詞では英語の前置詞ほどの多様な空間関係を表すことができない。日本語の空間表現は助詞も含めて次のように整理できる。

  1. 「空間名詞+空間辞」型:{中に、上で、下まで、外へ、等々}
  2. 「空間辞」型:{に、で、を、から、まで、へ}
  3. 「移動動詞-て」型:{通って、横切って、向かって、等々}*4

格助詞は空間辞として用いられる。しかし、英語の前置詞が日本語の格助詞に対応する場合も、日本語と英語が一対一で対応するわけではない。例えば、at the stationは、I met him at the station.では「私は駅で彼に会った」に対応するが、I arrived at the station in time for the train.では「私は列車の時間に間に合って駅に着いた」に対応する。一方、I went to the station.では「に」が現われて「私は駅に行った」にも「私は駅へ行った」にも対応する*5。日本語には空間関係を表す名詞表現が多いため、英語の前置詞が日本語の「空間名詞+空間辞」に対応することも多い*6。また、英語の前置詞が日本語の動詞に対応することも少なくない。経路を表す表現に多いが、そうした表現に限らず訳出法のひとつとして提示されることもある*7。今回の教材ではこうした点も踏まえて前置詞の導入を試みている。

現代英文法講義

現代英文法講義

空間と移動の表現 日英語比較選書(6)

空間と移動の表現 日英語比較選書(6)

英語感覚が身につく実践的指導―コアとチャンクの活用法

英語感覚が身につく実践的指導―コアとチャンクの活用法

日英語比較講座 第2巻 文法

日英語比較講座 第2巻 文法

*1:安藤貞雄(2005)『現代英文法講義』開拓社, p. 624

*2:田中茂範(1997)「空間表現の意味・機能」田中茂範・松本曜『空間と移動の表現』(日英語比較選書6)研究社出版, p. 7.

*3:田中茂範・佐藤芳明・阿部一(2006)『英語感覚が身につく実践的指導』大修館書店, p. 39.

*4:田中茂範(1997)「空間表現の意味・機能」田中茂範・松本曜『空間と移動の表現』(日英語比較選書6)研究社出版, p. 8

*5:国廣哲彌(1980)「総論」国廣哲彌(編)『文法』(日英語比較講座第2巻)大修館書店, p. 4.

*6:中右実(1980)「テンス、アスペクトの比較」国廣哲彌(編)『文法』(日英語比較講座第2巻)大修館書店, p. 149.

*7:中野清治(2012)『学校英文法プラス』開拓社

英語基礎:Sアカデミー「英語S」の背景(その4)

語順と語形(続き)

「名詞+動詞+名詞」という基本文構造を導入し、動詞との位置関係で主語と目的語を規定し、文の中枢をになう動詞を述語動詞と定義して現在形か過去形を使うとした。そして人称代名詞を導入し、主語と目的語の名詞を「冠詞(の仲間)+形容詞+名詞」の名詞句として展開して、ようやくS+V+Oの文型の導入が一区切り着いた感じになる。これに続くのが、副詞や前置詞の導入である。副詞というのは実に扱いにくい品詞である。

副詞とは、概念上、あるできごとに於いては、その様態や、場所や、時や、因果等の側面が、又、広義のモノや状態に於いては、そのある様態の程度の側面がとらえられた場合の、その様態や、場所や、時や、因果や、程度、あるいは発言の確信度を表すことばで、形態上、その多くは-er, -estをとって比較変化をなし、あるいは、「形容詞+-ly」の形をしていて、more, mostをとって比較変化をなし、統語上、動詞、形容詞、副詞、あるいは文全体を修飾する語類、をいう。*1

上記の解説はある程度網羅的であるが、高校生にいきなり示すことができるような定義ではない。

副詞も機能は複雑であるが、屡々実体の性質や動作についてその程度や様態を意味し、付随性を付随的に限定する表象を喚起するところから、形容詞や動詞を限定する二次的付属語(Subjunct)として構成的内部形式を発達させている。*2

この中島の指摘は、統語的にも意味的にも副詞が「おまけ」であるということであり、名詞や動詞、形容詞のあとに導入すべき品詞であるという程度の示唆は得られよう。しかし、もう少し具体的な教育的示唆がほしいところである。海外の文献に目を向けると、例えばHaegeman and Guéronは、副詞という範疇にはさまざまな要素が含まれており、単一的なとらえ方が困難であると指摘している*3。Collins and Holoは副詞はその特徴として動詞を修飾するが、形容詞を修飾するもの、副詞を修飾するもの、文全体を修飾するものもあると述べている*4が、Parrottはこの説明は正しくないし役に立たないと批判的である*5。Parrottはさらに、副詞を、名詞、形容詞、動詞、前置詞などの他の語類に当てはまらない語類と考えることも有効かもしれないとも述べている。再び和書に戻る。

本当に「副詞」という範疇は必要なのでしょうか。「副詞」という抽象度の高い範疇を持ち出すよりも、「時の表現は文末に」「頻度の表現は動詞の前に」のように記述したほうがポイントがはっきりするのではないでしょうか。ポイントがはっきりするというのは字句の問題だけではありません。「副詞」という範疇を用いないほうがむしろ幅広く事実を説明できるということでもあるのです。I went to America in 2001.という文の"in 2001"は、学習英文法の中では「前置詞句」と呼ばれることもありますし、「副詞句」と呼ばれることもあります。これをどちらで呼ぼうとも、内容としては「時の表現」ですから、文中の位置は文末になるわけです。*6

問題はその意味と機能であり、とりわけ、位置によって微妙に変化する修飾作用の理解が重要である。ここで一つ注意したいのは、範疇と機能を区別するという基本的態度を育てることが副詞の指導でも大切である、という点である。*7

こうした指摘から、副詞とは何かといったことを正面から学習者に突きつけるよりも、意味範疇ごとに分類し、それらが文中のどの位置に生じるかを学習者に知ってもらえばそれでよいのではないか、ということになる。

実用生成英文法

実用生成英文法

文法の原理―意味論的研究 (1949年)

文法の原理―意味論的研究 (1949年)

English Grammar: A Generative Perspective (Blackwell Textbooks in Linguistics)

English Grammar: A Generative Perspective (Blackwell Textbooks in Linguistics)

English Grammar: An Introduction

English Grammar: An Introduction

Grammar for English Language Teachers

Grammar for English Language Teachers

学習英文法を見直したい

学習英文法を見直したい

*1:平野清(1986)『実用生成英文法』開文社出版, pp.29-30.

*2:中島文雄(1949)『文法の原理』研究社出版, pp. 120-121

*3:Haegeman, L. and Guéron, J. (1999) English Grammar: A Generative Perspective. Oxford: Blackwell, p.58.

*4:Collins, P. and Hollo, C. (2000) English Grammar: an introduction. London: Macmillan, pp. 31-32

*5:Parrott, M. (2000) Grammar for English Language Teachers. London: CUP, p. 28

*6:末岡敏明(2012)「より良い学習英文法を探るための視点」大津由紀雄(編著)『学習英文法を見直したい』研究社, p.137

*7:藤武生・鈴木英一(1984)『冠詞・形容詞・副詞』(講座・学校英文法の基礎3)研究社出版, p. 135

英語基礎:Sアカデミー「英語S」の背景(その3)

語順と語形(続き)

英語の最重要文型として「名詞+動詞+名詞」というパターンを提示し、動詞の左側の名詞を主語、右側の名詞を目的語とそれぞれ規定した。文の要となる動詞は「述語動詞」というもので、現在形か過去形を使うことにも触れた。さらに名詞句の仕組みを、まずは冠詞の有無、単複、some/anyの絡みで7つの基本形として示した。theとの関連で、this/theseとthat/thoseにも軽く言及している。次いで人称代名詞の導入となる。これは拙著『良問でわかる高校英語』で導入した方法を踏襲した。この段階で、冠詞(とその仲間)という括りで語群をまとめることができる。こうして「冠詞+名詞」さらに「冠詞+形容詞+名詞」という句構造の導入を可能にしていく。『フレーズで覚える英単語1400』には「形容詞+名詞」で覚えるフレーズが収録されているため、ここで中学(高校入試)レベルの単語を名詞句の構造に習熟しながら覚えていくことが可能になる。『フレーズで覚える英単語1400』には「名詞+名詞」で覚えるフレーズも収録されており、名詞を修飾する名詞についてもここで扱うことになる。

練習問題としては、寺島実践*1の「センマルセン」を参考にした文構造の分析を課している。このときの素材は、練習問題用の所見の英文ではなく、解説資料に掲載した英文をそのまま練習問題ととして再掲した。これは『英文法基礎10題ドリル』(田中健一著、駿台文庫)の影響によるところが大きい。解説資料に挙げた例文は『短文で覚える英単語1900』から抜き出したものであるが、基本文構造の導入の段階では同書の例文をさらに短く加工して掲載したものもある。単純な構造の文から複雑な構造の文へと学んでいけるように配慮した。TBLTやCLILが流行る昨今において逆張りとも言える徹底的な構造シラバスである。文構造の習熟には語句整序問題も一定の効果があり、今回の教材にも取り入れている。同時に『フレーズで覚える英単語1400』に収録されているフレーズを組み合わせて英文を作る練習も課した。

形容詞を導入したあたりで、日本語の品詞と英語の品詞が対応しないことにも触れる必要が生じる。国語の授業では「~い」で言い切る語を形容詞と呼んでいるが、「~だ」で言い切れる形容動詞も活用の仕方が違うだけで広い意味での形容詞である。しかし英語の形容詞に対応する日本語を見ていくと、形容詞と形容動詞だけでは対応しきれていないことに気づく*2。例えばlocalは「地元の」というように「名詞+助詞」であるし、dryは「乾燥した」という動詞である。こうした事例を挙げて英語の品詞の判断は英語の仕組みに基づくものであり、和訳を介して判断するものではないことを生徒に理解してもらう。些細なことのように思われがちであるが、こうしたところに英語が苦手な生徒が嵌まる陥穽があるように思われる。

高校入試 フレーズで覚える英単語1400 (シグマベスト)

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高校入試 短文で覚える英単語1900 (シグマベスト)

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英文法基礎10題ドリル (駿台受験シリーズ)

英文法基礎10題ドリル (駿台受験シリーズ)

英文法の基礎研究―日・英語の比較的考察を中心に

英文法の基礎研究―日・英語の比較的考察を中心に

日本語文法・形態論 (1978年) (教育文庫〈3〉)

日本語文法・形態論 (1978年) (教育文庫〈3〉)

*1:寺島隆吉(1986)『英語にとって学力とは何か』三友社出版、寺島隆吉(1991)『英語記号づけ入門』三友社出版

*2:形容詞と形容動詞をまったく別の品詞と考えている学習者も多い。しかし黒川泰男が『英文法の基礎研究-日・英語の比較的考察を中心に-』(三友社出版)で述べているように同一の品詞と見るべきであろう。この黒川の考え方は、鈴木重幸『日本語文法・形態論』(むぎ書房)によるものである。