英語基礎:Sアカデミー「英語S」の背景(その14)
have:「SにOがある」
日本語の「は」の働きを確認した後に、英語の動詞haveに触れておく必要があると考えている。haveは日本語の「持っている」に対応づけられることが多いが、実際は「持っている」よりも幅広い意味を持つ語である。
haveの基本概念は"to be with"、つまり、文の主語と目的語が「同居」しているという意味です。日本人はhave=「持つ」、と考えがちですが、日本語の「持つ」は"I have a book in my hand"のような場合にたまたま「持っている」という意味になるだけで、むしろhaveは「持っている」と訳せない場合のほうが多いのです。*1
《xがyをHAVE空間に有する》というのがhaveのコアである。*2
コア理論に基づいて明示的な提示を行うのもひとつの方法である。しかし、コアとは文脈を捨象した抽象的な意味である*3。これは英語を母語としない者にはハートで感じ取れないおそれがあるものである。もともと「コア」という概念は母語からの負の転移を防ぐためのものである。そうであるならば、母語である日本語を適切に用いれば、いきなりコアを導入するよりももっと実りのある明示的語彙・文法指導ができるのではないだろうか。ここに対照言語学的な知見が求められる。
英語でI have two children.とHAVEを用いて表現するところは、日本語では「私(ニ)ハ子供ガ二人アル[イル]」とBE系統の動詞が出てくる。前者はY HAVE Xという型、後者はWITH Y BE Xという型がそれぞれもとになっている。
- 私には子供が二人ある/いる。 WITH Y BE X
- I have two children. Y HAVE X
Yが「私」またはI、Xが「子供」またはchildren、BEが「アル/イル」、HAVEがhave、WITHは日本語では「ニ」として実現されるが、Yが主題化されて「ハ」を伴うと日本語の文法の習慣に従い消去されることがある。*4
池上が指摘する、この「は」の出没をとらえるため、haveに触れる前に「は」の働きを確認しておく必要があった。以下に実際の教材に掲載した例文を示す。
I have two children. 私には子どもが2人いる。
This room has two windows. このへやには窓が2つある。
Our house has five rooms. 私たちの家には5部屋ある。
The table has four legs. そのテーブルには脚が4本ある。
さらに次のような生理現象を表す例も教材で取り上げている。
I have a fever. 熱がある。
I have a headache. 頭が痛い。
これについては次に挙げる指摘を参考にしている。
英語は事柄を主語の動作として表現するので、そういう主語がないときはthereやitを形式的な主語としてThere was a heavy snow hard last nightというか、または人を主語にしてWe had a heavy snow last night.のようにいう。*5
ところが日本語は事柄そのものに動詞や形容詞で表し、その事柄を成立させている要素を補語として先行させる。「昨夜、大雪が降った」のように、またI have a headacheと「頭が痛い/頭痛がする」とを比較すると、英語が主語をたて客観的に事柄を表現するのに対し、日本語は事柄に即した主観的な表現をする。英語なら客観的に三人称についてもHe has a headacheといえるが、日本語では「あの人は頭が痛い/頭痛がする」とはいえない。「頭が痛い/頭痛がする」は話し手自身の観点からいっているので、「私は」は前提されているのである。日本語の文法は談話文法的性格がつよく、話し手と聞き手に解っているもの(前提されるもの)は表出されないのが普通である。「私は頭が痛い」と特に「私は」というのは、他の人と対比したときの表現である。*6
また、主語が参加者・経験者で、目的語が出来事を表す例も教材で取り上げている。
Today we have an English class. 今日は英語の授業がある。
We had little rain this summer. この夏は雨が少なかった。(少なくあった)
I have business in Osaka. 大阪に用がある。
これらはthere構文でも表すことができるが、意味の違いがある。
there構文では主語の存在のみに関心があるのに対して、have構文では主語が主題で、その主語が何をもっているかという意味から転じて、その主題にとって何が存在するかを表すと考えられる。*7
このようなhaveの振る舞いを確認して、日本語と英語の違い、そして英語においてS+V+Oという文型がいかに中心的な文型であるかということを生徒に再確認してもらう。このことに狙いを定めたのがここでhaveを取り上げた理由である。
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*1:ケリー伊藤(1994)『プレイン・イングリッシュのすすめ』講談社, p. 137.
*2:田中茂範・佐藤芳明・阿部一(2006)『英語感覚が身につく実践的指導』大修館書店, p. 86.
*3:田中茂範(1990)『認知意味論:英語動詞の多義の構造』三友社出版, p. 21.
*4:池上嘉彦(1981)『「する」と「なる」の言語学』大修館書店, pp. 70-71.
*5:中島文雄(1987)『日本語の構造-英語との対比-』岩波書店, p. 157.
*6:中島前掲書, pp. 157-158.
*7:八木克正(1996)『ネイティブの直観にせまる語法研究-現代英語への記述的アプローチ-』研究社出版, p. 283.