持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

英語基礎:Sアカデミー「英語S」の背景(その20)

天候や時を表す文

itがthisやthatと異なるものであることを確認してようやく天候を表す文の導入に移っていく。日本語には「…になる」という形で天候を表す言い方がある。これは季節の移り変わりにも使える表現である。

春になった。 Spring has come.
嵐になった。 Storm has come.*1

上に挙げた例では、日本語ではゼロ項動詞による文になっているが、英語ではcomeを用いた1項動詞による文になっている*2

雨になった。 It started to rain.

この例では、英語もゼロ項動詞になっているが、英語では次に挙げる指摘の通り、主語のない文は認められないのでitが主語になっている。

The verb makes up a complete clause, but the impersonal subject it has to be added, to satisfy the requirement of English syntax that each clause have some constituent in the subject slot*3

意味論の観点からは次のような指摘もある。

これらは具体的に指せる対象ではないので、必然的にthisやthatの使用は控えられ、逆に、状況的に共有される名詞情報と捉えて、その代用としてitを使うのである*4

佐藤らの引用にある「これら」は「天候・時間・距離・明暗などを、漠然と共有される状況」を表すitのことを言っている。このようなところから、教育文法としては、日本語との構文上の違いを意識しつつ、漠然とした状況をitがあらわすことができることを生徒に理解させ、そのうえで実際のitの文に習熟させる必要がある。

英語の論理・日本語の論理

英語の論理・日本語の論理

A New Approach to English Grammar, on Semantic Principles (Clarendon Paperbacks)

A New Approach to English Grammar, on Semantic Principles (Clarendon Paperbacks)

レキシカル・グラマーへの招待―新しい教育英文法の可能性 (開拓社言語・文化選書)

レキシカル・グラマーへの招待―新しい教育英文法の可能性 (開拓社言語・文化選書)

*1:Enya, Storms In Africa PART II.

*2:安藤貞雄(1986)『英語の論理・日本語の論理』大修館書店, p. 257.

*3:Dixon, R. M. W. (1991) A New Approach to English Grammar on Semantic Principles. Oxford: Clarendon Press, p. 21.

*4:佐藤芳明・田中茂範(2009)『レキシカル・グラマーへの招待』開拓社, p. 130.