持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

私の立場(その3)

英語学習にとってコアとは何か

まず、拙ブログで過去にコアについて論じているので、そちらのご紹介。
http://d.hatena.ne.jp/ownricefield/20080317
http://d.hatena.ne.jp/ownricefield/20080320
http://d.hatena.ne.jp/ownricefield/20080322
そして、私自身のコア理論の受容の仕方は、以下で展開した。
http://d.hatena.ne.jp/ownricefield/20070308#p1
http://d.hatena.ne.jp/ownricefield/20070310#p2
これに関連する論点がこちら。
http://d.hatena.ne.jp/ownricefield/20100406
コア理論を立ち上げた田中らのチームは、それに先だって言語転移の研究を行っている(川出・田中・高橋1989;田中1987;Tanaka and Abe, 1985;田中・阿部1989など)。このことが意味することは、教育文法への認知意味論の援用の背景に学習者の母語をどう制御するかという問題意識があったということである。つまり、コア理論とは母語である日本語の知識に引きずられずに英語の言語知識に触れるため概念装置なのである。
しかし、コアというのはコンテクストを捨象した意味であり、これをイメージ化するときわめて抽象的な「絵」を学習者に提示することになる。そして、これを解説するためのメタ言語が必要となる。学習者が学習ストラテジーによって直訳的な対応関係を求めようとする傾向がある。そこから生じる誤りを抑制しようとするためにコアは一定の役割を果たしうるが、コアの精度を高めれば高めるほど、学習者がその抽象度についていけなくなるおそれがあるのではないだろうか。それであるならば、コアではなく、それよりも抽象度の低いプロトタイプを起点とし、そこと日本語との対比に気づかせながら、徐々に個々の文法形式や語彙のコアに迫っていくというFocus on Meaning(s)という発想が必要なのではないかと思うのである。

参考文献

  • 川出才紀・田中茂範・高橋朋子(1989)「認知意味論と第二言語習得」『信州大学教養部紀要』23, pp.131-145.
  • 田中茂範(1987)「外国語学習における意味発達:単語の学習」田中茂範編著『コアとプロトタイプ』三友社出版,pp.3-22.
  • Tanaka, S. and Abe, H. (1985) "Conditions on Interlingual Semantic Transfer." In P. Larson, E. Judd, and D. Messerschmitt eds. ON TESOL '84: a brave new world of TESOL. Washington, D.C.: TESOL.
  • 田中茂範・阿部一(1989)「外国語学習における言語転移の問題3」『英語教育』37(11) pp.78-81