持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

裏事情

現実を話す

私は生徒に対して、ウソは言わない。もちろん故意にウソをいう教師はいないだろうが、現実を知らないで結果的にウソを言ってしまうことはあるのではないか。
夏休み明けの最初の授業で、私は生徒たちに「リーディングの授業なんか受けなくても入れる大学はたくさんある」と言った。これはウソではない。英語の入試問題で、解答個数の8割以上が文法や語法などの知識を問う問題になっているケースは少なくない。8割以上の得点率でなければ合格できない大学はごくわずかであるから、英語の読解力がなくても大学に入れるということになる。もっとも、物事を逆から見れば、読解力をほとんど問わない長文総合問題に含まれる知識問題対策をすることこそがリーディングの授業だという向きもあるのだろう。だが、文法や語法の知識を扱う授業ならほかにもあるのだ。
むろん、これは自分の授業なんか受けないで受験勉強をしてくれという意味ではない。リーディングの授業はリーディングの授業なのだということを宣言したに過ぎない。学生時代、塾講師をしているうちに当時の学校英語の主流が「文法訳読」ではなく、文法説明の欠落した「訳読」であることに気付いた。その後、訳読自体が授業の中心ではなくなってきたが、代わって台頭してきたのが知識伝達型の「文章付きグラマー」である。「文法訳読」が技術の習得を目指していたが、「文章付きグラマー」では知識の暗記しか行われない。この状況は健全ではない。だから、「リーディング宣言」が必要だったのだ。

予備校と学校

学力中下位層では読解力を養う授業は学校のほうに分がある。現役生対象のコースでは英文読解の授業は、週あたり80分〜100分1コマである場合が多い。これに対して高校では公立でも50分3〜4コマ、私立では5コマ以上であるのが普通である。私立のコマ数ならば、読解文法の習熟と文理解への応用、パラグラフ構造の習熟とスキミングやサマライジングへの応用、そして設問へのアプローチまで扱うことも不可能ではない*1。しかし予備校のコマ数では時間数が足りないし、コマ数が多めに設定される場合でも授業担当者がバラバラでシラバスの整合性が得られない*2。中学では塾講師に対抗し、高校受験対策を超えた素晴らしい授業を実践されている先生方が多いが、高校ではまだまだそうした先生が少ないように思われる。このため本来カリキュラム上は学校のほうが有利であるはずなのにもかかわらず、その枠組みが十分に生かされていないのが残念である。

*1:それなりの教材は必要である。

*2:カリキュラムは教務で組んであっても、シラバスはバラバラであることがある。