持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

「知識先渡し授業」の実際など

「知識先渡し授業」の実際

「知識先渡し授業」とは、ポスト訳読の受験対策で蔓延する文法語法知識の伝達を中心とする授業のあり方を改め、リーディング本来の「読む」という言語活動を授業の中心に据えるためのものである。文法語法、ときには背景知識をも盛り込んだプリントを生徒に配布するのだが、これで文法語法の板書が完全になくなるわけではない。文脈把握上必要な語法知識などはむしろ板書する量が増えることもある。しかし、これは文脈把握というのが、優れた読解力を持つものが神懸かり的に行うものではなく、着眼点が確かであれば誰にでもある程度できるのだということを生徒に気付かせるには効果的である。語句を押さえることが全体を見渡すヒントになるというのは、案外見落としがちな部分なのかもしれない。
「知識先渡し授業」は普及しない。なぜか。教師のプリント作成の負担が大きいからだ。プロ非常勤講師ならできるだろう。でもそれ以外の状況に置かれている教師にできるかどうかは分からない。プリントを作っただけで満足してもいけない。本当は各教室にプレゼンター(書画カメラ)があれば効果的なプリント授業ができるのだが、そうも言っていられない。このためプリントに書き込めば済む場合でも、黒板に書き写して説明しなければならない場合が生じるのである。それでも、教師が語句知識を書いて、それを生徒が写し、そのノートを丸暗記する、というようなスパイラルから抜け出せる方法であることは間違いないと思う。

言語転移と文系・理系

同程度の学力でも、文系と理系では違うのだと思った。文系では現代文読解から転移した読解方略を修正させて英文読解に取り組むのだろうが、理系ではそれがない。だから、教師がパラグラフの仕組みについて明示的指導をしても、文系と理系では生徒の心的表象は異なったものになっている可能性がある。「読み」のどのようなところで躓くのか、それが文系と理系で違うのかということを、できるかぎり明らかにしていけたらと思う。だが、こうした文系理系の区分は、大学入試の制度が変われば吹っ飛んでしまうような区分である。受験国語とは違う、どの分野へ進む生徒にも共通に身につけるべきで、なおかつ外国語学習の基盤にもなるような国語力(Japanese for General Purposes)ということも考えていかなければならないのかもしれない。