持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

文章におけるレトリックとは何か(その8)

醗酵させる知恵

資料集めさえすれば、書くべき文章の内容が決まるというわけではない。断片的な知識であったものが、自分の考えとして形にするプロセスを経なければならない。板坂(1973)はこれを「醗酵させる」と呼んでいる。知り得た知識を関連するもの同士でグループ化したり、そうした知識に何らかの反応をしたりして、「醗酵」は進んでいくのである。
どんなに発酵が進んだとしても、思考はどこまでも思考であって、表現ではない。上村(1993)は、プロセス・ライティングの見地から英作文の指導法を提案している。プロセス・ライティングとは、概略、古典レトリックの考えに基づいて手順化した文章表現法と考えてよい。上村は、そのプロセス・ライティングの立場から、フリー・ライティングというものを取り上げている。これは「何でもいいから、自由に書く」というスタンスを取ることにより、文体や文法などに過敏になったりすることで生じる心理的バリアーを軽減させることを目的としている。フリー・ライティングでは、限られた時間の中で思いついたことをできるだけたくさん書く。こうすると、書くまでは考えてもいなかったり、考えていても漠然としていたものが、書くことによって思いついたり、明確になったりすることがある。書くための構想だが、構想のために書いてみることもまた、真なのである。

参考文献

  • 板坂元(1973)『考える技術・書く技術』講談社現代新書
  • 上村妙子(1993)「英語を書くコミュニケーション」橋本・石井(編)『英語コミュニケーションの理論と実際』桐原書店