文型論の変遷③
生成文法を援用した文型論
安藤はChomsky(1965)など標準理論の基底部規則から直接生成されるものを「基本文型」として8つの文型を設定している。安藤(1978)はChomsky(1965)などを参考にして基本文型を生成する基底部規則 (base rules) を示している。
- S→NP+VP
この規則はOnionsの分析と実質的には変わらない。Chomsky(1965)ではS→NP+Predicative-Phraseと分析していて、Predicative-Phrase→Aux+VP (Place) (Time) と分析している。
- VP→Aux+MV (AM) (MV=main verb, AM=adverbial modifier)
安藤がMVという範疇を用いているのは既存の学校文法の枠組みになじみやすいように配慮したためと思われる。
- MV→Copula+Pred
- MV→V (NP) (NP) (Manner) / Adjunct / S'
- Pred→ AP/NP/Particle
- Adjunct→Adv phrase / (PP) (PP)
- AP→Adj (PP)
- PP→P+NP
これらの規則のうちChomsky(1965)にはない、安藤独自の統語範疇はAdjunctである。これをもとに安藤は次のような基本文型(basic sentence types)を設定している。
- SV: Birds fly.
- SVA: He lives in London.
- SVC: He became rich.
- SVCA: I am aware of the danger.
- SVO: I lost my key.
- SVOA: He put the key in his pocket.
- SVOO: John gave me a hat.
- SVOC: I forced John to go. (安藤1983: 4)
2, 4, 6にAが現れているが、これは基底部規則に示されているようにVを下位範疇化するものである。任意の語句である修飾語と義務的な副詞類を区別することの必要性を指摘している点はQuirk, et.al.(1985)と重なる。
安藤(1983)では基底から直接生成されたこれらの構造を基本文型と称しているが、安藤(1996)ではこれらの文型が動詞の下位範疇によって規定されると説明している。
生成文法の知見を生かした文型論としては中島(1980)も知られている。
- S→Tns S0
- S0→NP VP
- VP→V (NP) (PP)
- VP→Vc AP/PP (中島1980: 10)
中島自身はいわゆる文型論を意識したわけではないと思われるが、安藤(1978)の規則と実質的に同じものと見ることができる。これは5文型の最大の欠陥である義務的な副詞要素を考慮すればかなり一般性の高い文型の分類ができることを示していると言ってよいだろう。
参考文献
- Chomsky, N. (1965) Aspects of the Theory of Syntax. Cambridge, MA: MIT Press.
- 安藤貞雄(1978)「5文型とその問題点」『学習英文法』研究社出版.
- ―――(1983)『英語教師の文法研究』大修館書店.
- ―――(1996)『英語学の視点』開拓社.
- 中島文雄(1980)『英語の構造 上』岩波書店.
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