持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

『実践コミュニケーション英文法』の文型論④

きょうから少しずつ各論に入っていきます。

「与える」「伝える」という意味の動詞

このグループの動詞は「授与動詞」や「与格動詞」と呼ばれているが、学習者には馴染みのある日本語の動詞から導入する方が適切であると判断し、このような項目を設けた。田中・深谷(1998)のいう動詞の「図式構成機能」、すなわち認知言語学で言う命題スキーマを喚起させる機能により、日本語の「与える」という動詞を目にした学習者は〈あげる人〉〈もらう人〉〈あげるモノ〉を連想し、〈誰かが、誰かに、何かを(与える)〉という図式を頭に思い浮かべることができる。そして「与える」に対応する英語の動詞であるgiveも〈誰かが、誰かに、何かを(与える)〉という図式を当てはめることができることに気付けば、その学習者はgiveという動詞を使うことができるようになる。阿部・持田(2005)ではこれを英語の語順に反映させる際にS+V+O+Oという記号を添えて既存の文型論とも橋渡しはしているものの、「第4文型」という用語は用いていない。
また、Mary gave Mary a present.とMary gave the present to Mary.の違いについても、情報構造の観点、そして文法構造と意味構造の平行性の観点から簡潔な説明を加えてある。

「置く」「運ぶ」という意味の動詞

このグループの動詞も図式構成機能によって〈誰かが、何かを、どこかに(置く)〉という図式を思い浮かべることができれば、putに代表される動詞の文型の習得が容易になる。従来の文型論ではこの文型の副詞要素を正しく捉えなかったが、この意味駆動型の文型では〈置くところ〉を表す副詞句が必須の要素であることが直感的に感じとることができる。安藤(2005)はputなどの動詞がput(x, y, z)「xがyをzに置く」という3項動詞であると、ヴァレンス的な分析をしたうえで、「『置ク』はすべての言語においてそうである」(21)という認知意味論的な説明を付け加えている。

参考文献

  • 安藤貞雄(2005)『現代英文法講義』開拓社.