持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

『実践コミュニケーション英文法』の文型論⑦

その他の文型

大学教科書という性質と、英語を話すためのエクササイズを盛り込むというコンセプトから、やむをえず取り上げないこととなった文型がいくつかある。

単純な動作や自然現象を表す動詞

英語の文の基本パターンは「名詞+動詞+名詞」の組み合わせでできるS+V+Oだが、人や動物の単純な動作や自然現象を表す場合にはS+V、つまり「名詞+動詞」だけの文で表される。

  • Birds fly.

これは従来の5文型で言う第1文型の取り扱い方なのだが、黒川(1986)の説明を参考にしている。つまりこれらの動詞が目的語をとらないのは自動詞だからという形式的な理由ではなく、単純動作や自然現象を表すから目的語が不要なのだということになるのである。
この文型は一見単純に見えるが、表している内容もまた単純で当たり前のことが多い。このため小寺(1990)も指摘しているように、何らかの副詞的な修飾語なしで用いられることは少なく、入門期に最初に導入する文型としてはあまり適切なものとは言えない。

〈存在〉や〈移動〉を表す動詞

これらの文はモノや人がどこに存在するのか、またはどこからどこへ移動するのかを相手に伝えるためのものであるから、副詞句を省略することはできない。

  • Mother is in the kitchen.
  • We came from the theater.

これは中右(1994)の基本命題型に典型的にあてはまるもので、7文型の枠組みにおけるS+V+Aのパターンをとる動詞に意味論的な根拠を与えている。

形容詞や名詞が述語になる文

このパターンは日本語と英語の文構造の違いに気付かせることから導入する必要がある。

  • 英 語:名詞+動詞+形容詞(This flower is beautiful.)
  • 日本語:名詞+形容詞(この花は美しい)

英語の形容詞は日本語の形容詞や形容動詞と比べ、時制を持たないなど叙述の機能が弱いので、動詞の力を借りなければ文として成立せず、このため「ある、いる」という意味の動詞であるBEを用いる、という考え方に立っている。
一般的に5文型の考え方では「補語」(complement)と呼ばれる概念だが、Onions自身は「述語形容詞」(predicative adjective)や「述語名詞」(predicative noun)と呼んでおり、この方が日本人学習者にとってはずっと納得のいく用語と言える。知らないうちに学習文法が改悪されている事例のひとつである。

参考文献

  • Onions, C. T. (1971) Modern English Syntax, Routledge & Kegan Paul: London.
  • 小寺茂明(1990)『英語指導と文法研究』大修館書店.
  • 黒川泰男(1986)『英文法再発見・上』三友社出版.
  • 中右実(1994)『認知意味論の原理』大修館書店.