持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

受験英語と読解文法

英文解釈参考書と英文読解

学校文法の初歩に単語・熟語の知識を含めた「基礎」から出発して、それに加えて何をしたら英文が読めるようになるかという方法を示すことが英文解釈の参考書の役割であった。これらの参考書は大きく3つに分けられる。

  1. 熟語中心のもの
  2. 文法的な捉え方をするもの
  3. 英米作家名文選

まず1について問題なのは「何をもって熟語というか」ということである。この種の参考書では熟語と「公式」が同一視されているが、こうした公式の多くは言い換えの日本語が示されているだけのことが多い。前にも書いたが、このような考え方は受験勉強が軽薄短小化した現在において根強く浸透しているが、学習者の記憶に過度の負担を強いるという点で好ましいものとは言えない。また、文学を専攻した教員が現場に多く、分析的思考を得意としないということが事態を悪化させているのかもしれない。
3については、方法論の欠如が最大の問題である。つまり、単に読んで訳すだけのものとなっているのである。英語を読んでわからない時に、記憶力やフィーリングだけではどうにもならないときに、その袋小路から脱出する方法を1や3は持ち得なかったのである。

品詞論再編

従来の学校文法は、8品詞の区別をその基本とし、品詞論がその中心になっている。しかし、文の構成という角度から見ると、8品詞の中には文の構成への関与の度合が大きいものと小さいものがある。これに対して基本4品詞という考え方がある。これは、薬袋(1994)、大場(1981)などに見られる。また、大場(1996)は基本7品詞という新しい枠組を提唱している。

※基本7品詞
 <第1グループ> 名詞(N)、形容詞(A)、動詞(V)、副詞(AD)、文(S)
 <第2グループ> 転換子(CVT)、拡充子(EPD)

このうち第1グループを実質的な基本品詞群として扱うのが望ましいと思われる。生徒の混乱を避けるため品詞としての文の導入はさらなる検討を要すものであるが、段階的に、他の4品詞よりも非明示的な形で導入するのが効果的ではないかと思う。また、基本4品詞と似たものに生成文法、とくにXバー理論における4つの統語範疇(N, A, V, P)があるが、PPすなわち Prep + NP が常に副詞か形容詞のはたらきをするという性質を考えれば学習文法にはなじまない考え方であることは明確であろう。

パラダイムの転換

読解の基礎としての文法を構築することは、品詞論の再編にとどまらない。新しい品詞論によって英文解釈の参考書が作られたとしても、第1章名詞、第2章 動詞 . . . のような構成をとっていては、与えられた単語列をなぜそのように読まねばならないのかという説明を体系的に行うことはできない。ここで必要なのは文の構造についての説明である。このため上述②の参考書は動詞と文型に関する記述が中心となっていったのである。そしてこのことはラテン文法を祖型とし、OnionsやNesfieldに由来する学校文法の体系とは異なるパラダイムを英文読解が要求していることを如実に表していると言えよう。

言語の線条性と継時性

言語はその記号が一列に連結した線条構造を持つ。この「線」は時間の流れの中で展開される線である。文法を記述する際にはこの「線」を超越した視点を設定することが多い。これは観察的立場である。生成文法が当面の研究の対象としている文法知識は離散無限を扱うシステムであるためこれを実時間で使用することができない。これは言語機能のモジュール性を仮定しているからであるが、読解という行為は他の認知機構と相互に作用しあってはじめて可能となるはずである。つまり、文法知識そのものとしての生成文法よりも、その運用としての文の理解過程、特に統語解析の考え方を援用することが、読解の文法を構築していく上では有効だということである。統語解析のなかでも、与えられた単語列から句構造規則などに従って処理していくボトムアップ式がよいと思われる。

統語解析と学習文法

統語解析では一般に文脈自由の句構造規則で記述することが多い。しかしこれらの規則をそのまま教室に持ち込むとなると、NPやPPといった非終端記号を導入しなければならず、現場が混乱するのは必至である。そこで動詞型を基盤とした解析モデルを提唱したい。与えられた単語列(文)を理解するためには辞書を引くこともあるだろう。そこには名詞や動詞といった品詞の情報はあっても、主語、目的語という情報は得られない。そこでまず「8品詞レベル」で単語列を捉え、次に「基本4品詞レベル」で捉え直す。この段階で句構造規則に従った単語のグルーピングが行われる。これは実際にはスラッシュなどで切りながら読んでいくことになる。
このような処理をを文頭から行っていくと、まず主語を認識することになる。その後述語動詞を認識し、動詞の意味にからその下位範疇を予測し、下位範疇が満たされていくことを順次確認していく。ここで必要なのは、基本4品詞の機能、句・節、そして動詞の意味といった基本的な文法知識や語彙知識だけである。ただ、この際に文頭から順番に処理をしていくクセをつけさせないと、返り読みをするようになってしまう。

参考文献

  • 阿部純一・桃内佳雄・金子康朗・金光五(1994)『人間の言語情報処理』サイエンス社
  • 安藤貞雄(1983)『英語教師の文法研究』大修館書店
  • 伊藤和夫(1977)『英文解釈教室』研究社出版
  • ―――(1993-94)「受験の英語時評」『現代英語教育』4月号-3月号
  • ―――(1996)「大学入試と日本語」『現代英語教育』10月号 pp. 18-20.
  • 金谷憲(編著)(1995)『英語リーディング論』河源社
  • 薬袋善郎(1994-95)「英語構文のオリエンテーション」『高校英語研究』1994年4月号−1995年3月号 研究社出版
  • 持田哲郎(1996a)「『文法』の軽視が『わからない生徒』を作っている」『英語教育』10月号 pp. 90-91.
  • ―――(1996b)「本誌10月号 伊藤和夫氏の記事を読んで」『現代英語教育』11月号 pp. 64-65.
  • 大場昌也(1981)『これからの英文法』ジャパンタイムズ
  • ―――(1996)「新しい学校英文法のための5つの提案」『英語教育』6月号-10月号
  • 高橋善昭(1986)『英文読解講座』研究社出版
  • ―――(1993)「入試最前線:予備校の文法指導」『現代英語教育』30(8) pp. 18-20.