持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

グループワークの方法

文法教育とグループワーク

従来の文法教育は教師が文法体系を学習者に対して明示的に提示することと、教師によって提示された文法体系を学習者が暗記することが大きな柱であったといえる。これに対してメタ言語能力の発達を促進するための文法教育では、学習者による言語現象への気づきを重視する。この場合、文法体系は教師の手の内にははじめからあるものの、学習者には必ずしもその全体像を示す必要はない。文法教育の明示性も学習者の状況によって異なってくる。小学校低学年では言語現象への気づきそのものが重要であるが、高等学校ではその気づきを学習者が言語化して説明することを求めることもあり、またそれを求めることで気づきが促進されることもあるかもしれない。言語現象への気づきを学習者が言語化しやすいようにするには、グループワークを取り入れることが必要である。
効果的なグループワークの方法としては、町田(2000b)が提案しているものがある。町田は授業でいきなりグループワークに入るのではなく、まずは「個人レベル」として課題に学習者個人で取り組ませるところから始めている。これはグループワークにいきなり入った場合に見られる、グループの特定のメンバーに言語活動を押しつけて自分では何もしないという学習者が現れるのを防ぐ効果もある。「個人レベル」でまとめた意見は、グループを編成してグループ内で意見交換を行う。この「グループレベル」でまとまった意見をさらに「クラスレベル」で意見交換を行う。町田はこのような形態の学習活動の繰り返しによって、個人、グループ、クラスでの交流が活発になると述べている。こうした授業形態は、「異なった考え方を持った生徒たちが相互に影響され啓発される」(町田2000b: 68)ところに最大の利点がある。このことは、同じ日本語母語話者でもさまざまな考えや語感を持つことに気づく機会をもたらすという点で、メタ言語能力の発達を促進する文法教育にも有効である。
グループワークを授業の程度取り入れていくのかについてはいくつかのパターンが考えられる。町田(2000b)はこれについて次の3つのパターンを想定している。

  1. 一時間の授業の一部をグループ学習に充てる場合。
  2. 一時間の授業をすべてグループ学習に充てる場合
  3. 何時間か続けてグループ学習を実施する場合

文法を扱う場合は、学習者による発見を大切にしつつも、できるかぎり深い気づきにつなげていくためにはファシリテーターとしての教師の役割が重要である。そのファシリテーターとしての教師の介入の方法のひとつとして、講義形式を取り入れることも考えていく必要がある。町田(2002)は、導入の段階で一斉授業、展開の段階でグループワークを行って、総括の段階で一斉授業に戻るという流れも提案している。

「研究の手引き」と「授業レポート」

グループワークでは、グループの中でどのような学習をするのかということを学習者に伝える必要がある。その指示は具体的で明確なものでなければならない。こうした学習内容についての指示を行うために、町田(2000a, b)では「研究の手引き」の活用を提案している。教師による指導計画に基づいた学習の内容と展開を学習者に理解させることが「研究の手引き」の主な目的であり、学習者にとっては学習のマニュアルとして機能するものである。ここに学習内容と留意事項を詳細に説明しておくことで、学習者は「研究の手引き」を随時参照しながら、円滑に学習を展開できるようになる。「研究の手引き」に盛り込む具体的な内容として、町田(2000a)はまず授業の「研究のテーマ」と「目標」を掲げている。これは何を何のために学ぶのかを学習者に伝えるためであると同時に、授業終了時の評価に対応するものでもある。「テーマ」と「目標」に続いて、町田は授業で行うことの概要を順を追って示すとしている。こうすることで学習者は「研究の手引き」を読み進めながら学習を展開していくことが可能になる。この「研究の手引き」に対応するワークシートとして、町田(2000a, b)は「授業レポート」を提案している。これは町田がノート指導の一環として考案したものである。「研究の手引き」に対応する記入欄を「授業レポート」に設けて、その欄に学習者が記入して学習が展開していくことになる。「個人レベル」「グループレベル」「クラスレベル」と展開していく学習では、それぞれのレベルの記入欄を「授業レポート」に設け、学習者が自分の考えと他の学習者の考えを比較できるようにする。これらは町田が国語科の実践のために考案したものであるが、他教科の授業においても利用可能ではないだろうか。

参考文献

  • 町田守弘(2000a)「効果的な授業創りのための戦略−「研究の手引き」と「授業レポート」『月刊国語教育』20(7) pp.68-69
  • 町田守弘(2000b)「グループ学習を導入した授業の戦略−教室の文化を生かすために」『月刊国語教育』20(8) pp.68-69
  • 町田守弘(2002)「学習指導要領を見直す戦略−一斉授業からグループ学習へ」『月刊国語教育』22(7) pp.70-71