持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

帰納的文法教育における参加型学習

文法教育と参加型学習

文法教育の授業のあり方を教師と学習者との関係からみてみると、参加型学習にも言及しておく必要がある。先行実践としては、原沢(2006)が日本語教育に関心がある者への文法教育に参加型学習を取り入れている。参加型学習は開発教育において重視されている学習方法である。山西(2000)は参加型学習の定義として次の3つを示している。

  1. 「人間と社会との関係性にみる『参加』という基本原理の実現を目指す学習であり、またそのために学習者の学習過程への参加を促す多様な方法・手法によって特徴づけられる学習である」(山西2000: 9)
  2. 「人間と社会、人間と歴史との関係性にみる『参加』という原理の実現をめざす学習過程への参加を促す多様な方法・手法によって特徴づけられる学習である」(山西2000: 10)
  3. 「学習者がその学習過程に、主体的に協力的に参加することを促す学習方法・手法」(山西2000: 10)

上記の定義のうち、1.と2.では「参加」が学習の方法であると同時に目的にもなっている。これに対して3.は、「参加」を教育方法・手法に限定して捉えている。原沢の立場は?であり、その目的は当然文法知識の習得にある。山西は参加型学習を3.のように教育方法に限定して捉える場合には「学習過程への参加を促す学習方法・手法」に具体的にどのような方法・手法が含まれるのかを明らかにする必要性を指摘している。山西はさらに、「学習者がその学習過程に、主体的に協力的に参加することを促す」という言葉の捉え方にも注意を向けるべきだと述べている。すなわち、教師があらかじめ計画・準備した学習の展開過程へ学習者が参加することのみを意味するのか、あるいは学習の準備・企画過程にも学習者が参加(参画)することをも意味するのかを明らかにする必要があるということである。

学習者はどこまで授業に「参加」すべきか

文法教育においては、「学習過程への参加を促す学習方法・手法」として帰納的アプローチによる発見学習を、グループや学級全体でのディスカッションなどを通して行うことになる。学習者の学習過程への参加については、教師が計画・準備した学習の展開過程に学習者が参加することとなる。松下(2004)は、学習の準備・企画過程にまで学習者が参加するような、学習者の自発的な意思に全面的に委ねる学びでは、肌身で感じることができない知や等身大を超えた知は学びのテーマとはなりにくいと指摘している。これでは学習者の言語を私的話し言葉から公共的言語へ引き上げていくような学びとはなりにくい。このため、文法教育では、教師があらかじめ学習の展開過程を教師が計画し、準備していく必要がある。原沢(2006)の実践も同様の考え方に基づくものであるが、本研究の文法教育が馬場(1992)のいう「学習者の文法」(LEARNER'S GRAMMAR)を言語学習者が習得することを目標とするのに対し、原沢の文法教育は言語教師が「教師の文法」(TEACHER'S GRAMMAR)を習得することを目標とする点が異なる。
高等学校の文法教育においては必ずしもグループワークのような手法をとらなくてもよいのではないかという考えもある。鴨岡(1958)もその立場にあるが、同時に「生徒に「考えさせる指導の方法」ということを特に高等学校で真剣に取りあげなくてはならない」(鴨岡1958: 3)とも述べている。確かに持田(2011)の実践のように、教師による講義形式であっても、学習者に考えさせる授業は可能である。しかし、原沢(2006)が指摘しているように、同じ日本語母語話者であっても日本語についての考えや感覚はさまざまであり、そうした多様な構成員によるグループで学ぶ方がことばについて考え学ぶ授業には望ましいといえる。原沢はまた、与えられたタスクを自ら考え、意見交換をして納得しながら進めていく学習は個々の学習者の達成感や満足感が高まると述べている。一人でひたすら丸暗記という文法学習のイメージを払拭して学習者の関心を高める意味でも、発見学習や参加型学習を取り入れた文法学習は有益ではないだろうか。

参考文献

  • 鴨岡幹夫(1958)「高等学校文法教育の問題点」『実践国語教育』217, pp.3-6
  • 原沢伊都夫(2006)「日本語教育者のための文法教育:参加型学習を取り入れた教育の実践報告」『静岡大学留学生センター紀要』5, pp.53-70
  • 松下良平(2004)「「学び」論の抗争」藤田英典・黒崎勲・片桐芳男・佐藤学(編)『教育学の最前線』(教育学年報10)世織書房
  • 持田哲郎(2011)「国語教育と英語教育の連携に向けて−文法教育を中心に−」町田守弘(編著)『明日の授業をどう創るか−学習者の「いま、ここ」を見つめる国語教育』三省堂
  • 山西優二(2000)「教育方法の基本原理と参加型学習」『開発学習』42, pp.4-10