持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

私の立場(その1)

慶應義塾大学英語教育シンポジウムに参加して

9月10日に行われた、慶應義塾大学英語教育シンポジウム「学習英文法−日本人の英語学習にふさわしい英文法の姿を探る−」に参加して、自分なりに学ぶところ、思うところを得た。そこで拙ブログでも過去に書き綴ったところも踏まえつつ、自分なりの現時点での学習英文法に対する考えを示していこうと思う。

学習英文法とは何か

学習英文法の概念については、Dirven(1990)や馬場(1992)などを手がかりに整理したい。Dirvenは、文法(Grammar)をまず、「教育文法」(Pedagogical grammar)と「記述文法」(Descriptive grammar)に二分している。さらに、教育文法を「学習者の文法」(Learning grammar)、「教師の文法」(Teaching grammar)、「参照用文法」(Reference grammar)の3つに分けている。この参照用文法について、教育文法の一類型でありながら、記述文法の一類型でもあるという位置づけをDirvenは行っている。ここから、英語の文法書とは英語の記述研究に基づく言語事実を踏まえつつ、教師や学習者に合わせて書かれたものと考えることができる。
一方、馬場(1992)は学習文法を「学習者の文法」(LEARNER'S GRAMMAR)と「教師の文法」(TEACHER'S GRAMMAR)に分けて捉えている。この部分はDirvenも立てている分類規準なのだが、馬場は参照用文法に相当する知識も、学習者の文法・教師の文法それぞれのなかに組み込んでいる。馬場は、学習者の文法を、行為としての文法学習([the act of] learning grammar)、知識としての文法(knowledge of grammar)、文法知識の活用(access to knowledge of grammar)に分けている。ここでの知識としての文法は、明示性を問題にしてはいない。つまり、明示的に学んだ文法知識と非明示的に、無意識的に学んだ文法知識とを区別していない。また、教師の文法の方について、馬場は文法の明示的知識(explicit knowledge of grammar)と文法指導([the act of] teaching grammar)に分けている。
こうした点を踏まえると、Rutherford(1980)も言うように、言語事実を正しく反映させるだけでは学習者に向けた教育文法としては十分とは言えないということになる。ひとことで言えば、「学習の本質(the nature of learning)」(Saporta, 1966: 81)を考慮する必要がある。伊藤・村田(1982)は外国語教育の立場から、学習者の知的発達や学習段階によって教育文法の記述の仕方が違ってくると述べている。Sharwood Smith(1981)は教育文法の記述にはconcentratedとextendedの2つがあり、concentratedは教師や上級学習者向けの参照用の文法であるのに対してextendedは、特定の学習者、特定の学習活動に向けた文法である。concentratedは汎用性の高い文法知識の体系で、教師の文法もここに位置づけられる。このconcentratedを習得しやすいように単元ごとに工夫したものがextendedであると考えることができる。

これらの前提に立って、主に高校生に英文法を教える私の考えについて、次回以降展開していこうと思う。

参考文献

  • 馬場哲生(1992)「学習文法とは何か」金谷憲(編著)『学習文法論』河源社
  • Dirven, R. (1990) "Pedagogical Grammar." Language Teaching. 23(1) pp.1-18.
  • 伊藤健三村田勇三郎(1982)「学習文法」伊藤・島岡・村田『英語学と英語教育』(英語学大系12)大修館書店
  • Rutherford, W. E. (1980) "Aspects of Pedagogical Grammar." Applied Linguistics 1(1) pp.60-73
  • Saporta, S. (1966) "Applied Linguistics and Generative Grammar." Valdman, A. (ed.) (1966) Trends in Language Teaching. New York: McGraw Hill.
  • Sharwood Smith, M. (1981) "Notions And Functions in a Constrastive Pedagogical Grammar" In A. James and P. Westney eds. New Linguistic Impulses in Foreign Language Teaching. pp. 39-53