持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

「作文」と「小論文」

「小論文とは違う作文」とは何か

受験小論文の世界では、「小論文は作文とは違う」と言われる。では、その「小論文とは違う作文」というのは何を指しているのだろうか。長尾(2001)は広義の作文と狭義の作文を区別している。長尾は広義での作文を作られた文章と定義している。そして狭義の作文を個人の視点から事柄を捉え、その心理や感情を書き記した文章であると定義している。「小論文とは違う作文」は長尾の言う狭義の作文である。これとはやや異なる視点から両者の区別をしているのは為田・吉田(2004)である。為田らは、作文をあらゆる形式から解放されて自由に書いた文章と定義している。そして小論文を明確な主張を持ち、その主張を客観的な根拠が支えている文章で、かつ主張の正統性を論理的に証明しようとする文章であると定義している。
このように見ていくと、「作文」とは感情に任せて好き勝手に書いた文章ということになる。しかし、高校生が「小論文は作文とは違う」と言われたときに脳裏に浮かぶ「作文」とは小学校・中学校・高校と学んできた作文である。学校で学ぶ作文が感情まかせの自由奔放なものであるならば、それは何年にもわたって学校で教えるようなものではないだろう。そう考えると、本来は広義の概念しかなかった「作文」に対して、受験小論文やアカデミックライティングの世界が「感情的な『作文』」という概念を仮想的に作り上げているのではないか、と考えることもできよう。*1

参考文献

小論文を学ぶ―知の構築のために

小論文を学ぶ―知の構築のために

文章作法入門

文章作法入門

*1:その意味で、小中高における作文教育の内容について見ていく必要がある。