持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

解説冊子の和訳

和訳の配り方

入試問題を収録した副教材を使用した授業で、「和訳先渡し」は可能なのだろうか。予習前提であるならば、それも可能なのかもしれないが、教室で問題を解かせる場合は、和訳の方を読んで設問を解く生徒が出てきそうで怖い。もっとも、「和訳後渡し」にしても、その和訳を生徒がどう使うのか、いちいち監視するわけにもいかない。ただ、和訳を配らないと、授業全体が「教師の和訳を聴き取る会」になってしまうのは間違いないだろう。英語の授業のはずが、日本語のディクテーション大会になってしまっては困る。「文法訳読」ではない、たんなる「訳読」の授業はこうして生まれるのだ。そして訳読式授業が批判される場合も、おそらくこういう授業を想定して批判しているものと思われる。こうした理由から、受験対策の授業では「和訳後渡し」が妥当ではないかと考えている*1

解説冊子の和訳の質

教師のなかには解説冊子の全訳をそのままリソがけして生徒に配っている人も多いのだろう。自分で和訳をする時間がないという事情もあろう。しかし、解説冊子の和訳を鵜呑みにしてよいものなのだろうか。私が使用している教材の和訳は、副詞句のかかり方を明らかに誤解して訳してあったり、従属節の訳を訳文の主語と述語のあいだに挟み込んであったりと、あまり良い訳とはいえない。語彙レベルの訳語にしても、少々常識や教養を欠いてるのではないかというものが散見されるのだ。
直訳調の和訳のほうが、生徒が復習するときに英文と対応させやすいという意見もある。たしかにそういった利点もあるかもしれない。しかし、この過程で生徒の日本語が蝕まれていく気がするのだ。むしろ、和訳は自然な日本語で提示し、日本語と英語ではどこがどのように違うのかを生徒が感得していくようであるべきだと思う。英語教師は、それだけの日本語知識を持つべきである。これは実際に教壇に立つ教師だけでなく、教材を執筆し、制作する立場の「教師」にも、あてはまることだと思う。

*1:私が担当しているクラスの一部は、訳文を穴埋めする方式の単語テストを行っている。この場合は、穴埋めして答え合わせをした段階で、事実上の和訳渡しになる。