文章におけるレトリックとは何か(その6)
古典レトリックの5要素
弁論術としての古典レトリックには5つの構成要素があるとされている(澤田1977)。5つの構成要素とは、「構想」「配列」「修辞」「記憶」「発声・所作」である。これらはラテン語からの訳語で、日本語の用語は何通りかある。このあたりは佐藤(1992)に整理されている。「構想」は英語ではinventionに相当し、「発想」「立案」「発見」と訳されることもある。「配列」は英語ではarrangementに相当し、「配置」「整理」と訳されることもある。「修辞」は英語ではstyleであり、「躰制」「文躰」「文体」「表現術」「表現法」とさまざまな訳語がある。「記憶」は英語でmemoryに相当し、訳語はこれひとつのようである。「発声・所作」は英語ではactionとdeliveryに相当し、「発音」「演術」「話術」「発声」「発表」などの訳語がある。これらの5要素は、「話す」「読む」のいずれにも適用できる表現技術とされている。とはいえ、音声言語と文字言語ではそれぞれ特性と制約があり、根本において共通であっても、実際の指導や学習についてはそれぞれに特化した方法を考えて良いであろう。
構想
構想は、話す内容、書く内容に直接関わるものである。構想の手がかりになるものとして、「誰」「何」「どこ」「どういう手段で」「なぜ」「どんなふうに」「いつ」といった問いを立てていくということが古くから言われている。これらを近江(1996)は「場面判断能力」として、「誰が話して/書いているのか」「誰に話して/書いているのか」「いつ、どこで話して/書いているのか」「どういう目的で話して/書いているのか」というようにまとめている。「誰が」というのは、「自分」という認識では不十分だという。「親としての自分」なのか「子としての自分」なのか、あるいは「社員としての自分」なのか「学生としての自分」なのかというように、自分を外から見つめ直すことが必要なのである。こうした認識は、相手が誰なのか、すなわち「誰に」を認識することで相対的に規定される。「誰が誰に」が決まると同時に、「いつ、どこで」や「どういう目的で」といったことも決まってくる。目的とは情報を伝達したいだけなのか、説得したいのか、あるいは楽しませたいのか、などの方向付けをしていくものである。
(後日に続きます)
参考文献
- 作者: 近江誠
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- 作者: 佐藤信夫
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- 作者: 澤田昭夫
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