持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

言語権

憲法草案などというものが動き出している。そろそろ日本でも議論しなければならないのが、公用語の問題である。英語を第2公用語にしようという発言が一時期目立ったが、現状では日本には第一公用語すら規定がない。国語教育で日本語が教えられているのは既成事実であるということ以上の根拠はない。学習指導要領は教育基本法・学校教育法・同施行規則・同施行令とリンクするが、これらの法令に国語教育でどの言語を教えるべきかについては明記されていない。

海外では憲法公用語が規定されている場合が結構ある。公用語はすべての国民に学習が義務づけられる言語で、すべての国民は公用語を使用して生活する権利がある。もちろん少数言語話者にも便宜を図り、母語による差別を禁止するというところまで法令で規定していることもあるようである。

これが日本であれば、日本語を公用語とし、日本語の学習義務が生じ、日本語で生活する権利が保障されることになる。国外に対しては英語などの外国語によって情報を発信していく必要があることは言うまでもないが、国内において日本語が通じない社会で日本語を使う権利が保障されないという事態になれば大問題である。

日本語の公用語化を言語による差別で法の下の平等に反するという意見もあるかもしれない。しかし基本的人権には公共の福祉に反しない限り、という条件が付いている。国民の大半が使う日本語が通じるかどうか、これこそまさに「公共の福祉」であると言える。

イギリスは11世紀のノルマン征服によって支配階級の言語がフランス語になった時期がある。しかし日本の長い歴史で日本語が取り上げられたことはない。そのため日本語を空気や水のような当たり前の存在とみなしがちなのだが、日本語だって放っておけばやがて滅びてしまうのかもしれない。その前に打つべき手は打って、我々の言語生活にとって必要なものをしっかりと守っていくことが必要なのだと思う。