持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

Pedagogical Syntaxを求めて

今日は自分の過去の仕事を振り返ります。

構文主義から認知意味論へ

英語学習の基礎としての統語知識を体系化する作業を、10年前からやっています。もともと私は、19歳とか20歳の頃はバイト先の塾で、『英文読解講座』(高橋善昭著、研究社出版)のように変形規則を振り回して英語を教えていました。その後、『現代英語教育』で「認知意味論からみた英文法」という連載が始まって、これと『発想の英文法』(田中茂範著、アルク)などを元にして認知的なアプローチで文法を教えたところ、あるレベルより上の生徒には非常に好評でした。これが21〜22歳の頃です。

認知意味論から生成文法

認知意味論ベースでここで問題だったのは「あるレベルより上の生徒には」という点で、中学英語もままならない生徒には、意味論的アプローチだけでなく、語順に習熟するための統語論的アプローチが必要であると感じるようになりました。しかし中学英語のテキストでは無駄が多く、高校レベルの文法知識との連携がスムーズでもありませんでした。そこで、中3の教科書の巻末に載っている基本文のリストを元に、これと高1レベルの文法知識とを整理し、効果的に配列しようと考えたのです。このときに理論的枠組みとして用いたのが、生成文法でした。
生成文法を学校文法に援用とする試みは、それまで変形規則を用いて文法説明をかっこよく見せるという観点で行われていました。しかし生成文法で援用すべきは句構造規則であり、これを普通の言葉で説明できれば、従来勘でなんとなく覚えてきた英語の語順がより意識的、効果的に習得できると思ったからです。ただ既習の文構造と新規に学習する文構造とが関連づけられていた方が記憶には定着しやすいので、その範囲で変形規則(主にwh-movement)を援用しました。全体としては抽象的な文法範疇の多い80年代以降の変形文法では利用しにくいので、標準理論や非変形文法であるHPSGの知見を生かしました。

使える文法を目指して

生成文法を援用し始めた初期の頃は、生徒にはある程度好評ではあったものの、生成文法のニオイがきつかったと思います。それを生成統語論の持ち味を生かしつつ、生徒のわかりやすい言葉による説明に置き換え、若干の認知統語論的知見を加味して、現在まで少しずつ手を加えてきたわけです。ところが、最近になって分かっていたようで、分かっていなかった問題がありました。それは生成文法がfact-orientedであるという点です。これは簡単に言えば「理論的に正しい文」を扱う理論であるということです。しかし理論的に正しくとも現実には不自然で使用頻度の低い文もあります。先ほど触れた「中学英語の無駄」とは正にその点であったはずなのに、受動態の説明と練習問題を見返したときに唖然としました。たとえば「by+名詞」の〈動作主〉がつく文が特殊であることに触れているにもかかわらず、練習問題に「by+名詞」を伴うものが多数含まれていたからです。
現実の英語を理解するための統語知識のはずが、現実にはない文を含めて扱ってしまっているところに、このプログラムの踏み外しがあったわけです。この枠組みは従来の以心伝心型の学校文法より、学習者に文法構造を「意識させる」という働きかけが強いだけに、不適切な材料の提示は慎まなければなりません。従来の学校英語・受験英語との親和性も考慮しなければならないとは言え、これは反省すべき点だと思いました。

最近の考え

いま私が考えていることについてはこのブログに書いています。修正点があればそれもまた随時書き込んでいきます。どうかみなさま、よろしくお願いいたします。