『実践コミュニケーション英文法』の文型論⑥
S+V+O+to不定詞
このパターンは従来の5文型ではとりあえず第5文型に組み込んでいるというのが現状であろう。すると「補語は名詞か形容詞」と定義していた教室では「この不定詞は何用法なのか」という疑問が生じてしまうし、「O=C」と説明していた教室では混乱が生じてしまう。学習文法書としては江川(1991)や町田(1994)などで学習者向けの分類が提示されているが、ここで大事なことは語法研究者が緻密に分析した言語事実(e.g.八木1996, 1999)をそのまま学習者に示すのではなく、学習者がこれらの動詞を適切に使えるようになるにはどのような提示の仕方が妥当であるのかを考えることである。
このパターンは研究者の間では「不定詞付き対格」(accusative with infinitive)と呼ばれている(大塚1970)。大塚はこの構文における対格と不定詞の間の疎密関係が一様ではないことを指摘しているが、これは5文型の枠組みでいうところの第3文型・第4文型・第5文型にまたがる言語現象であることを示唆している。
村田(1982)と安藤(1983)ではBresnanの行った分類を取り上げている。
- wantタイプ:I want him to be honest.
- believeタイプ:I believe to be honest.
- challengeタイプ:I challenged to be honest.
challengeは日本人学習者には馴染みがないと思われたのか、村田はこのタイプの代表格としてforceをあげて「forceタイプ」としている。
このうちwantタイプはlike, love, hateなどの好悪の感情を表す動詞として意味的な括りが可能であるが、紙幅の関係で阿部・持田(2005)では扱っていない。理由は頻度そのものは決して少なくないものの、このパターンをとる動詞の数は少なく「want+人+to−」などのようにイディオマティックな形で覚えている学習者も多く大学教科書という性格上、あえて載せなくてもいいのではないかと判断したためである。
believeタイプは「『思う』『分かる』という意味の動詞」としてすでに別枠で扱っている。知覚動詞もこのグループにはいるがこれもやはり別に項目を建てている。(http://d.hatena.ne.jp/ownricefield/20051109を参照)さらにBresnanの分類ではこのなかに使役動詞(make, have, let)も含まれるが、動詞の意味で文型を規定する我々の立場ではこれらの動詞を別に扱うこととした。
challengeないしはforceのタイプはさらに3つの下位区分があるという。
- challenge, compel, force, oblige, allow, permitなど
- command, order, require, request, ask, begなど
- advise, persuade, teach, tell, warnなど
この下位区分は統語的な特徴による分類で、上から順番にthat節に書き換え不可、S+V+thatが可能、S+V+O+thatが可能な区分となっている。これBresnanが提唱していた理論が語彙機能文法(Lexical Functional Grammar;LFG)と関係している。この理論では語彙規則が大きな役割を果たすため、動詞の統語特徴を正しくとらえることが必要だったのである(cf.セルズ1988)。
これらの動詞を意味で括ると、challengeの動詞群は「使役(〜させる)」、commandの動詞群は「命令する」、adviseの動詞群は「助言(〜するように伝える)」とまとめることができる。阿部・持田(2005)では、このうち使役の動詞群は原形不定詞をとる動詞群とともに「『〜させる』という意味の動詞」という項目のもとにまとめた。そしてcommandの動詞群を「『命令する』という意味の動詞」、adviseの動詞群を「『〜するように伝える』という意味の動詞」という項目のもとにそれぞれまとめた。そのうえで、to不定詞と原形不定詞の意味の差、不定詞補文とthat節の意味の差についても触れている。