文型論の変遷①
習得過程・文理解過程に沿うものにするために
英語の文法を明示的に指導する際に避けては通れないのが文型である。従来より文型と言えば5文型が学校文法の定番でり、現在でも広く用いられていると言えよう。本論では5文型の問題点を指摘し、その代案を提案していくことにする。
Onions と細江
学校文法の5文型はOnoinsと細江逸記に負うところが大きい。Onionsは文をまず主語(the subject)と述語(the predicate)に分析し、述語は動詞のみで構成される場合と動詞と他の語句が結び付いて構成される場合とがあるとした。ここで注目すべきことはOnionsは「文型」ではなく「述語型」(form of the predicate)、「補語」ではなく「述語形容詞・名詞」(predicative adjective/noun)という語を用いているという点である。細江(1971)も、その基本的な考え方は Onions の述語型を踏襲している。用語から分かるのは、「文型」とはもともと「動詞型」であるということと、S+V+Cが他とは違う、やや特殊な文型であるということである。このことは英語よりも形容詞の叙述性が強い日本語を母語とする我々にとっては、現在一般に用いられている「補語」という概念よりも直感的に納得できるものである。
5文型の問題点
5文型の持つ利点として、小寺(1990)は5つの文型という数が記憶するのにさほど困難ではないことと日英語の語順の違いを明示的に示してくれることの2点を挙げている。確かに一見多種多様に見える英語の語順を少数のパターンにまとめることができれば、統語知識を習得するうえで有効であることは間違いないであろう。しかしその目的のために文型を5通りにする必要は必ずしもない。また日英語の語順の違いを学習者に気づかせることは有益であるものの、5文型がその意識化に最良のものであるとも言えないのではなかろうか。実際、寺島(2000)が指摘しているように、動詞の後に生じる品詞と文型の番号との関係に整合性は見られない。
- S+V → S+V[Ⅰ]
- S+V+ad. → S+V+M[Ⅰ]
- S+V+a. → S+V+C[Ⅱ]
- S+V+n. → S+V+C[Ⅱ]またはS+V+O[Ⅲ]
- S+V+O+ad. → S+V+O+M[Ⅲ]
- S+V+O+a. → S+V+O+C[Ⅴ]
- S+V+O+n. → S+V+O+C[Ⅴ]またはS+V+O+O[Ⅳ]
この不整合性から、学習者にとっては恣意的な文型番号の学習が負担となり、さらに5文型では義務的な副詞要素をそぎ落とした文型認識を迫られることとなり、これらの点が統語知識を習得する上で足かせとなるのである(及川1994)。
参考文献
- Onions, C. T. (1971) Modern English Syntax. London: Routledge & Kegan Paul.
- 細江逸記(1971)『英文法汎論』篠崎書林.
- 小寺茂明(1990)『英語指導と文法研究』大修館書店.
- 及川暁夫(1994)「認知意味論から見た英文法(9)文型をどう捉えるか」『現代英語教育』31(9).
- 寺島隆吉(2000)『英語にとって「文法」とは何か』あすなろ社.
- 作者: C.T. Onions
- 出版社/メーカー: Routledge
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- 作者: 細江逸記
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