言語教師・持田哲郎のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

英語基礎:Sアカデミー「英語S」の背景(その18)

There is/are . . . で始まる文

このクラスではすでに日本語の「は」の働きを導入済みである。S+V+O+Cも導入済みである。この2項目を生徒が理解していることが、There is/are . . .を導入する前提であると考える。まず、次の2つの日本語の文の違いを生徒に考えてもらう。

  1. 「(はじめて話題にのぼる)辞書机の上にある」
  2. 「(すでに話題にのぼっている)辞書机の上にある」

1.は「何がどこにあるか」という文全体が表す情報を相手に伝える文である。これに対して、2.は「~は」は主題を表す。主題は相手もすでに知っている人・物・事を表す。このため、この文は主題で表した人・物・事がどこにあるのかを伝える文になっている*1。日本語ではこの2つの文は「は」と「が」の違いを除けば同じ構造に見える。しかし、日本語の文が「主題+述語」で成り立っていると考えた場合、表面的には同じに見えても実はちがった仕組みをしていることがわかる*2

主題  ][述語 辞書机の上にある]
→[主題 辞書][述語 _机の上にある]

では英語ではどうであろうか。上に挙げた日本語に対応する英語は次のようになる。

  1. There is a dictionary on the desk.
  2. The dictionary is on the desk.

英語では冠詞の交替が見られることに加え、見た目にも別の構造の文が用いられている。A dictionary is on the desk.では文全体が新情報になるためぎこちなく感じられるという指摘もある*3。ただし、目の前に存在する物を描写する場合は、文頭に不定名詞句が現れる文も問題なく用いることができる*4。このように、この英語の特殊な文型の存在を生徒に納得してもらうには、日本語の「は」について理解してもらう必要があった。

英語のこのthere構文は、倒置によるものであろうか。このthereには「そこ」という場所を指示する本来の意味はない。このthereはダミーに過ぎない。モノの存在を導入する役割だけを担っていると言える。

Sentence with there introduce an entity into the domain under discussion, the universe of discourse. Because such sentences assert or bring to the foreground the existence of certain entities they are often labelled existential sentences. *5

また、A dictionary is on the desk.のような文は、目の前に存在する物を描写する場合にしか用いることができない。そこで、There構文のbeの後に小節が生じているという分析*6を援用するのが教育文法としても適切ではないかという見通しが得られる。小節は従来の学校文法でいうところの、O+Cの意味上の主語と述語の関係に対応する。この関係を理解させるには、この構文を扱う前にS+V+O+Cに習熟している必要がある。

ここまでの解説をしたうえで、日本語の「ある」「いる」の存在文から英語の文頭名詞句+BE…の文、There構文、HAVEを用いた文の3種の文を使い分ける練習問題を課している。

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現代英文法講義

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*1:富岡龍明・堀正広・田久保千之(2008)『ライティングのための英文法ハンドブック』研究社, p. 24.

*2:柴谷方良(1978)『日本語の分析』大修館書店, p. 201-203.

*3:Quirk, R. et al.(1985) A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, p. 1402.

*4:安井稔(編)(1987)『例解現代英文法事典』大修館書店, p. 500.

*5:Haegeman, L. and Guéron, J. (1999) English Grammar: A Generative Perspective. Oxford: Blackwell, p. 121.

*6:安藤貞雄(2005)『現代英文法講義』開拓社, p. 762.