持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

『良問でわかる高校英語』「別冊」の別冊(その11)

Chapter 2 動詞と文型(その7)

6の「S+V+O+O」ではまず、「あげる」と「してあげる」という2つのグループに動詞を分類している。中村(2003)は、I'll buy you this shirt.という文に「私がおまえにこのシャツを買うだろう」という直訳を与え、この直訳自体は教える必要があるものの、この直訳が原文解読のための便宜的な試訳であって実際に使われている日本語とは異なることを指摘している。そのうえでこの文の完全な和訳文が「このシャツを買ってやろう」でありそれを学習者に気づかせることが重要であると中村は述べている。ここで大切なことは、「このシャツを買おう」と「このシャツを買ってやろう」との違いである。百貨店などで尋ねられる「ご自宅用ですか」の問いに対する答えと関連してくる。この問いを肯定するのは前者の文である。英語で言えば、I'll buy this shirt.である。buyの用法としてはこちらがプロトタイプであろう。後者のような他人に買ってあげる用法はプロトタイプからの拡張によって生まれたと考えることができる。
一方、I'll give this shirt.は、よほど文脈の支えがないかぎり、不自然な文であり、言い足りなさを感じる。最近はやりの参考書や予備校講師の言葉を借りれば、不完全な文である。I'll buy this shirt.は完全な文であるが、I'll give this shirt.は不完全な文となる。つまり、S+V+O+Oをプロトタイプとする動詞群(6.2.)と、S+V+Oをプロトタイプとしていわば臨時に拡張してS+V+O+Oとして用いられる動詞群(6.3.)とに分類することが必要であると考えた。こうするとことで、目的語を入れ替えたときに生じる助動詞の違いも明快に説明することが可能になる。すなわち、主語から与格目的語へ一気に移動するのがtoであり、主語以前のどこから主語を経て与格目的語に至る「移動」がforである、といった具合である。この区別は阿部・持田(2005)よりも、前面に押し出したかたちになっている。

参考文献

  • 阿部一・持田哲郎(2005)『実践コミュニケーション英文法』三修社
  • 中村保男(2003)『英和翻訳の原理・技法』日外アソシエーツ