持田哲郎(言語教師@文法能力開発)のブログ

大学受験指導を含む文法教育・言語技術教育について書き綴っています。

教室英文法の試み(その5)

述語動詞と準動詞

学校英文法でいう「述語動詞」と「準動詞」は、言語学で一般に使われる「定形動詞」と「非定形動詞」の概念にほぼ対応する。定形動詞が英語にあって日本語にないものであるならば、日本語では定形動詞と非定形動詞の区別がないことになり、述語動詞と準動詞の区別がないということになる。これを学校英文法に親和性の高い言い方でまとめると、英語には日本語にない「基本時制」というものがあり、英語には基本時制を表す「述語動詞」と基本時制を表さない「準動詞」という2つの動詞の用法がある、ということになろう。

It seems that he is a good doctor. 彼が名医である思われる
He seems to be a good doctor. 彼は名医である思われる
It seemed that he was a good doctor. 彼が名医である思われた
He seemed to be a good doctor. 彼は名医である思われた
It seems that he was a good doctor. 彼が名医であった思われる
He seems to have been a good doctor. 彼は名医だった思われる
It seemed that he had been a good doctor. 彼が名医であった思われた
He seemed to have been a good doctor. 彼は名医であった思われた

上のseemの例でto不定詞を用いたものは主語が文頭に移動している。織田(2007)はHallidayの論を踏まえて主語+動詞定形要素が英文の成立条件であると述べている。以前の生成文法では「時制文の条件」(Tensed-S condition)というものが提案されており、時制を持った文の主語は移動できないとされていた(原口・中村(編)1992)。理論としては古いものであるが、準動詞の構文を学習者に提示するうえでは示唆的なもとのと考えることができる。つまり、基本時制をもつ述語動詞には主語が必要だが、基本時制を持たない準動詞には主語が必要でないから文頭に移動しているという説明は教室の英文法としては十分な説得力を持つものといえる。
準動詞は基本時制を表さないということを教室で明確に打ち出せば、to have beenのような完了形の不定詞が現在完了形とは根本的に違うということも理解しやすくなる。ただし、こうなると、「過去分詞」の意味をしっかりと扱っておく必要が出てくる。準動詞である過去分詞が過去という基本時制を表すことはない。では過去分詞はいったい何を表すのであろうか。この問いに対する明確な答えも、教室では求められるのである。

(続く)

参考文献